補正については、除くクレームの訂正を認めて29条の2違反無しとした無効審判請求を不成立とした審決を維持した知財高判大合議平成18年(行ケ)第10563号「ソルダーレジスト」事件が、「『明細書又は図面に記載した事項』とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる。」という規範を定立した。この規範は、除くクレームに限らずその後の下級審裁判例において踏襲されており、訂正・分割要件においても同様と解されている。
そうすると、実務上の問題は、「…このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないもの」とは如何なるものであるかということになる。特に、特許査定後に分割して発明特定事項(構成要件)の一部を削除して拡張するとき、及び、明細書中の実施例(図面)を抽象化してクレームアップするときにおける補正・訂正の可否がどのような考慮要素により判断されているかが重要である。
この点、特許庁の審査基準は、「『当初明細書等に記載した事項』との関係において新たな技術的事項を導入するものでなければ、その補正は許される。…例えば…削除する事項が発明による課題の解決には関係がなく、任意の付加的な事項であることが当初明細書等の記載から明らかである場合には、この補正により新たな技術上の意義が追加されない場合が多い。」と説明しており、発明の課題との関係が重要視されている。
審査基準の附属書Aを見ても、「事例7: 上位概念化~クレーム文言を削除する補正 」は補正が許される例であるところ、 補正前のクレーム文言は「…凹面状の成形面…」であり、補正後のクレーム文言は「…凹面状の成形面…」であったことから、補正後のクレームは、「凹面状の成形面」も「凸面状の成形面」も両方含むという事例設定であった。ここでは、「[説明]本願の発明が解決しようとする課題は、光学素子用成形型の表面に被覆する被覆膜を改良することで、高温下での離型性や耐久性に優れた光学素子用成形型を提供することであって、光学素子用成形型の成形面の形状は、このような課題の解決には直接関係しない。そのため、上記課題を解決する手段として、成形型の成形面の形状は必要不可欠な要素とはいえず、本願発明にとって任意の付加的な要素であって、新たな技術的事項を導入するものではない。」と説明されており、発明の課題との関係が決定的である。(逆に言えば、仮に当該発明の課題が「凹面の成形面に液体を溜めること」であったならば、補正前後のクレーム文言が全く同じであり、実施例の図面<下掲参照>が全く同じであったとしても、当該補正は新規事項追加として認められなかったであろう。)
本判決(「流体圧シリンダ及びクランプ装置」事件)を含み、「ソルダーレジスト」大合議判決以降の下級審裁判例を概観すると、概ね、上述した審査基準の考え方と合致しており、また、特許権者に有利あるいは不利な下級審裁判例が蓄積しているため、ここで整理しておくことが実務上有用であると考え、以下に整理した。
(本判決の事案では、要するに、補正により「この弁体が当接可能な弁座と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え」という構成要件を削除し、代わりに、「前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材」という構成要件を追記したものである。)
このようなトレンドの中での本判決の位置付けとしては、「発明の課題解決」と直接関係する構成要件を削除するないし抽象化するという補正等は新規事項追加にあたり許されないというトレンドに沿ったものであると思われる。
1.補正前後の特許請求の範囲(【請求項1】)
<補正前>
「【請求項1】シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流体圧シリンダにおいて,
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と,この弁体が当接可能な弁座と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え,
前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。」
<補正後>
「【請求項1】シリンダ本体と,
前記シリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,
前記出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室と,
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,
前記エア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備えた流体圧シリンダであって,
前記開閉弁機構は,
前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され,小径軸部と前記小径軸部に対して前記流体室の反対側に設けられた大径軸部とが一体成形された弁体本体を含む弁体と,
前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材と,
前記シリンダ本体の前記装着孔の途中部に設けられ,前記弁体本体の前記小径軸部が挿通される貫通孔を有する環状部材と,
前記装着孔の開放側部分に固定され,前記弁体本体の前記大径軸部が内嵌される凹穴を有するキャップ部材と,
前記環状部材と前記キャップ部材との間に形成され,前記弁体を収容する収容室と,
前記環状部材の径方向に延びるように形成され,前記収容室を前記エア通路の前記一端部側に連通させる第1エア通路と,
前記キャップ部材に形成され,前記収容室を前記エア通路の前記他端部側に連通させる第2エア通路とを含み,
前記出力部材が所定の位置にない場合,前記開閉弁機構は,前記弁体を前記流体室に進出させた状態に保持し,前記第1エア通路と前記第2エア通路とを開く開放状態を維持し,
前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を前記第1エア通路と前記第2エア通路とを閉じる閉弁状態に切り換え,前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。」
※問題となった補正では、要するに、「この弁体が当接可能な弁座と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え」という構成要件を削除し、代わりに、「前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材」という構成要件を追記したものである。
すなわち、実施例に即して言えば、主たる付勢要素である「油圧導入室53」及び「油圧導入路54」を構成要件から削除して、補助的な付勢要素である「圧縮コイルスプリング53a」をクレームアップしたものである。
2.本判決の抜粋
『 (後掲) 』
3.「新規事項追加」に関する関連裁判例の紹介(一部のみ紹介する。高石秀樹著「特許裁判例事典(第二版)」参照)
3-1.補正等により削除される事項が、発明の課題と直接関係するとして、新規事項追加である(補正・訂正・分割×)と判断された、特許権者不利な裁判例
①『本件』平成31年(行ケ)第10026号「流体圧シリンダ及びクランプ装置」事件<鶴岡裁判長>
*補正事項が、発明の課題解決のための主たる手段の削除である。⇒補正×
(判旨抜粋)『本件補正は,「弁体」を有する「開閉弁機構」について,本件補正前の請求項1から「この弁体が当接可能な弁座と,前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え」という発明特定事項を削除し,「前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材と…を含」むという発明特定事項を新たに導入する内容を含むものである。したがって,本件補正後の本件発明1には,弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成として,流体室の流体圧を利用するための流体圧導入室及び流体圧導入路を備えることなく,弾性部材のみとする構成も含まれる…。
…実施例2において,油圧導入室53と油圧導入路54は,発明の効果と結びつけられた構成といえる。…
…実施例2の構成は,油圧導入室53と油圧導入路54を備えることによる油圧による付勢を主とし,圧縮コイルスプリング53aによる付勢を補助的に用いるものである…。かかる構成から,主である油圧による付勢に係る構成をあえてなくし,補助的なものに過ぎない圧縮コイルスプリングのみで付勢するという構成を導くことはできないというべきであり,実施例2においては,油圧導入室53と油圧導入路54が発明の効果と結びつけられて記載されていること…を考慮するとなおさらである。…
開閉弁機構に流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることなく,弾性部材のみによって弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項とはいえない。』
②知財高裁平成18年(ネ)第10077号「インクジェット記録装置用インクタンク」事件<飯村裁判長>
*(発明の課題解決に)不可欠の構成要件の削除は新規事項追加となる。⇒補正×
(判旨抜粋)『本件分割出願に係る本件発明1には「インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる」との構成要件の記載はない。
そして,本件原出願の当初明細書等には,「インクタンクのインク取り出し口を封止する部材」を「先端が鋭くないインク供給針でも貫通できるフィルム」とするインクジェット記録装置用インクタンクに関する発明が記載されているが,フィルムを保護するための「インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる」との構成が不可欠なものとして記載されていることが認められる。しかし,本件原出願の当初明細書等には,この構成要件を欠く本件発明1については,全く記載はなく,当初明細書等の記載から自明であると認めることもできないから,本件分割出願は,本件原出願との関係において,不適法なものであり,本件分割出願の出願日は,本件原出願の時まで遡及することはなく,現実の出願日となる。…
本件原出願の当初明細書等は,「インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる」との構成を具備しない技術には課題が残されていることを明確に示して,これを除外していると解される。したがって,本件原出願の当初明細書等のいかなる部分を参酌しても,上記の構成を必須の構成要件とはしない技術思想(上位概念たる技術思想)は,一切開示されていないと解するのが相当である。』
③平成21年(行ケ)第10049号「細断機」事件<飯村裁判長>
*発明の課題解決に必須の構成の削除は新規事項追加となる。⇒補正×
(判旨抜粋)『原告は,分割出願に際して本件原出願明細書から削除された構成である「本件連結材」は,細断機の作動時にも非作動時(…)にも,細断機として必要な剛性を確保する上で不可欠な構成要素ではなく,その削除は,新たな技術的意義を追加するものでもないし,当業者であれば,本件原出願明細書において「本件連結材」を有しない発明が記載され,又は「本件連結材」が任意の付加的事項であることが記載されているのも同然であると理解することができる…旨主張する。しかし、…
「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」(本件連結材)は,細断機の剛性を大きくするという発明の解決課題を達成するための必須の構成であり,本件原出願明細書には,同構成を有する発明のみが開示されており,同構成を具備しない発明についての記載,開示は全くなく,また,自明であるともいえない。
したがって,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」との記載部分を本件原出願明細書の「特許請求の範囲」の記載から削除したことは,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加することを意味するから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではなく,分割出願の要件を満たしていないから,不適法である。』
④平成25年(行ケ)第10070号「レンズ駆動装置」事件<富田裁判長>
*発明の課題解決に必須の構成の削除は新規事項追加となる。⇒補正×
(判旨抜粋)『原出願発明では,内側周壁について特定されているのみならず,原明細書にも,内側周壁がない構成は記載されていない。しかも,原明細書…には,原出願発明の第1実施の形態が内側周壁を有することを前提とした上で,「マグネット13が対向する開口部4の縁4aのみに内側壁3gを形成しても良い」と記載されている。当該記載は,少なくともマグネットが対抗する開口部の縁には内側壁又はこれに対応する内側周壁を形成することを必須とする旨の記載であるから,原明細書には,磁路を形成するために内側周壁を必須の構成とする発明が記載されているというべきである。そうすると,内側周壁を有しないレンズ駆動装置に係る発明を含む本願発明は,原明細書に記載されているということはできない。
また,内側周壁を有するレンズ駆動装置は,内側周壁の厚さ,外側周壁とコイルとの間隔分が寸法上余計に必要となることが明らかであるから,内側周壁を有しない構成を採用することにより,レンズ駆動装置としての寸法を更に小さくすることができるという技術上の意義を有するものである(この点については,原告らも,…従来,当業者は,常に磁気回路上のメリットと,小型化及びコストアップに代表されるデメリットとを比較して,内側周壁や内側壁を設けるか否かを選択し,レンズ駆動装置を設計しているものであると主張している。)。そうすると,レンズ駆動装置としての寸法を更に小さくすることができるという技術上の意義を有する,内側周壁を有しないレンズ駆動装置に係る本願発明は,磁路を形成するために内側周壁を必須の構成とする発明に関する原明細書の記載から自明であるということもできない。…
…内側周壁を有しないレンズ駆動装置に係る本願発明が,内側周壁を必須の構成とする発明に関する原明細書の記載から自明であるということができない以上,特定事項A,特定事項B及び特定事項Cの構成が原明細書の記載から自明であるからといって,分割要件を充足するものということはできない。…原告らは,原明細書から発明を抽出する際に,何を構成要件とするかは出願人が定めるものであり,出願人である原告らは,内側周壁を構成要件として抽出していないが,原明細書に内側周壁が記載されているからといって,分割出願の際に,その内側周壁を発明の構成要件として必ず記載しなければならないものではないなどと主張する。確かに,原明細書からいかなる発明を抽出するかは出願人の選択に委ねられるものではあるが,当該選択は,分割出願の要件を充足する限度で許されるにすぎない。』
⑤平成23年(行ケ)第10391号「発光ダイオード」事件<飯村裁判長>
*明細書記載の効果を奏する構成として、具体的に記載された組成のみを当業者は理解するとした。⇒補正×
(判旨抜粋)『…明細書…【0101】以下の記載及び【図13】には,以下の実験結果について説明がされている。…下部構成を採用する等同一条件の下での実験において,本件組成に属する蛍光体を使用した場合(実施例1)では,水分による劣化を防止できるとの効果が得られたのに対し,本件組成に属しない蛍光体を使用した場合(比較例1)では,高温多湿条件下で早期劣化の結果が生じ,その結果に相違が生じた。…当業者であれば,「(下部構成を採用した場合には,)水分による劣化を防止することができる」との原出願の明細書の記載部分は,本件組成に属する蛍光体について述べたものであると認識,理解するのが自然であるといえる。…当業者において,【0047】に記載された表面構成と下部構成が本件組成に属しない蛍光体についても選択可能であると理解するとまでは認められない。…
被告は,本件組成に属しない蛍光体についても,効果が得られる場合がある旨の実験結果…を提出する。しかし,分割が許されるためには,原出願の明細書に本件発明についての記載,開示があること(当業者において,記載,開示があると合理的に理解できることを含む。)を要するから,…上記実験結果…をもって,前記の結論を左右することはできない…。』
⑥平成25年(ネ)第10098号「角度調整金具」事件
※補正事項:「くさび形窓部のくさび面」 ⇒ 「くさび形の空間部を形成するくさび面」(上位概念化)
*原出願明細書中で、発明の課題解決を理解できるのは、補正前の構成のみ。⇒補正✕
*H25(行ケ)10201同旨
(判旨抜粋)『原出願明細書には、…『くさび面』を『第1アームに形成されるくさび形窓部によってその外方側に形成される面』とする構成以外の構成については,記載も示唆もない。…そうすると,当業者が,原出願明細書の記載から,浮動くさび部材の当接面が当接する『くさび面』を,第1アームのケース部にくさび形窓部を形成しないで,異なる構成や部材により形成することで課題を解決することを理解し,かかる解決手段の 構成を想定することができたとまでは認められない。…本件特許発明は,第1アームのケース部にくさび形窓部を形成することによりくさび面を設けるという形態のみならず,これを設けずに第1アームとは異なる部材により形成する等の他の形態をも含むものと解されるから,原出願明細書に開示された技術的事項を上位概念化するものであって,上位概念化された上記技術的事項が原出願明細書に実質的にも記載されているということはできない。』
⑦平成23年(ワ)第35168号「発光ダイオード」事件
※補正事項: フォトルミネセンス蛍光体の組成を削除した(上位概念化)
*原出願明細書中で、作用効果を奏するのは補正前の組成によると認識/理解する。⇒補正×
Cf.H23(ワ)32776と逆
(判旨抜粋)『…当業者であれば,『(下部構成を採用した場合には,)水分による劣化を防止することができる』との乙5明細書の記載部分は,本件組成に属する蛍光体について述べたものであると認識,理解するのが自然であるといえる。また…下部構成を採用可能である(採用した場合に水分による劣化防止という効果を奏する)のは,本件組成に属する蛍光体が有する性質によるものと認識,理解するのが自然であるといえる。…そうすると【0047】に接した当業者において,【0047】に記載された下部構成が本件組成に属しない蛍光体についても採用可能であると理解するとまでは認められない。…』
3-2.補正等により削除される事項が、発明の課題と直接関係ないとして、新規事項追加でない(補正・訂正・分割要件〇)と判断された、特許権者有利な裁判例
①平成26年(行ケ)第10087号「ラック搬送装置」事件<設樂裁判長>
※補正事項: (測定ユニットを)「懸下」⇒「保持」(上位概念化)
*補正事項が、発明の課題との関係で本質的(必要不可欠な要素)でない。⇒ 補正〇
(判旨抜粋)『本件明細書の記載を見た当業者であれば,可動アームに測定ユニットをどのように取り付けるかは本件発明における本質的な事項ではなく,測定ユニットは,その機能を発揮できるような態様で可動アームに保持されていれば十分であると理解するものであり,そして,本件特許の出願時における上記技術常識を考慮すれば,可動アームに測定ユニットを取り付ける態様,『懸下』以外の『埋設』等の態様とすることについても,本件明細書から自明のものであったと認められる。…
さらに,測定ユニットの『懸下』と『埋設』に関して,その作用効果において具体的な差異が生じるとしても,そのこと,本件明細書に記載された本件発明7の前記技術的意義とは直接関係のないことであり,また,本件特許の出願時における前記技術常識を考慮すれば,本件訂正発明2が本件明細書に記載された事項から自明である…。』
②平成23年(ワ)第32776号「発光ダイオード」事件
※補正事項:(…発光素子が)「一般式GaX Al1-X N(但し0≦X≦1である)で表される」という限定を削除した(上位概念化)
*課題・課題解決手段が共通する範囲で、当初明細書の開示を認めた。⇒“サポート要件”のあてはめに近い。⇒抽象化表現OK
Cf.H23(ワ)35168と逆
(判旨抜粋)『当初明細書の…の記載に照らせば,乙1発明の課題及び解決手段は,窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加することにより,蛍光染料又は蛍光顔料から発光素子からの光の波長よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良くする点にあると合理的に理解できる。…
このように,当業者は,当初明細書の記載に照らして,『窒化ガリウム系化合物半導体』全般について,乙1発明自体の課題及び解決手段と共通の課題及び解決手段を理解するものと解されるから,当初明細書には,(本件組成や発光ピークの限定のない)窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子を樹脂モールドで包囲し,前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料又は蛍光顔料を添加する,という発明についても開示がある…。』
③平成26年(行ケ)第10242号「シュレッダ-補助器」事件
*補正事項と課題との関係が重視された。⇒抽象化表現OK
(判旨抜粋)『…当初明細書等に開示された発明の技術的課題及び作用効果,さらにはこれらに開示されたシュレッダー補助器の具体的な形状等に照らすと,当初明細書等に開示されたシュレッダー補助器の横幅が1つのものに固定されていたと理解するのは困難であり,むしろ,シュレッダー機本体の紙差込口の横幅,すなわち,これに相応する刃部分の横幅に対応するものとすることが想定されていたものと理解すべきことは明らかである…。』
⇒H28(行ケ)10088は、親出願の当初明細書に対して新規事項追加と判断した。
④平成26年(行ケ)第10201号「熱間プレス用めっき鋼板」事件<高部裁判長>
*補正事項と課題との関係が重視された。⇒抽象化表現OK
*H23(行ケ)10292同旨
(判旨抜粋)『…明細書に記載された複数の発明の中から,どの発明部分を特許請求の範囲として特許出願するかは出願人が自由に選択できる事項であり,特許請求の範囲を当該選択した発明部分に限定した理由等が明細書に記載されていないからといって,それだけでは,新規事項を導入する訂正として許されないこととなるものではない。…本件発明と本件訂正発明とは,解決すべき課題,課題解決手段及び作用効果については何ら変わるところがない。…いずれも本件発明においては同等の技術的意義を有する発明として記載されているものであって,本件発明の「亜鉛または亜鉛系合金のめっき層」の中からどのような組成のものを選択して特許請求の範囲として訂正するかは,特許権者である被告が,本件特許に先行する発明において開示されている発明の内容その他諸般の事情を考慮して自由に決定できる事項というべきである。』
⑤平成25年(行ケ)第10338号「卓上切断機」事件
*補正事項と課題との関係が重視された。⇒抽象化表現OK
(判旨抜粋)『…「ボールベアリング36」と「すべり軸受リング35」が支えている荷重の配分が異なることやそれぞれの軸受(ベアリング)の機能の違いに技術的意義があるわけではない。そうすると,本件発明1における両者の技術的意義は基本的に同一であって,パイプの摺動を可能にして支持する上下の部材について,様々な部材の中からどのような軸受(ベアリング)等を用い,上下の部材にどのように荷重を配分して支持するかは当業者が適宜なし得る設計的事項であって,このような摺動を可能にする部材を「摺動部材」と抽象化して表現したとしても,新たな技術的事項を導入するものではない。』
⑥平成26年(行ケ)第10145号「ローソク」事件<設樂裁判長>
*補正事項と課題との関係が重視された。⇒抽象化表現OK
(判旨抜粋)『…本件特許明細書には,実施例1の他には,ワックスの残存率が33%のローソクの実施例はない。しかし,本件特許明細書によれば,本件発明は,点火に要する時間が短縮され,確実に点火できるローソクを提供するという課題を解決するためのものであり…,燃焼芯に被覆されたワックスを燃焼芯先端部より除去し燃焼芯を露出させるという簡便安価な対応で、格段に点火時間を短縮させることができるという効果を奏する…。そして,実施例1は,「ワックスの被覆量」が「点火時間」を決定する要素の一つであることを前提として,その関係を求めるため,簡易なモデルとして,芯全体にワックスが均一に33%被覆された燃焼芯を使用して,点火実験を行ったものである…。そうすると,実施例1の実験結果を評価する上では,ワックスの被覆量が問題となるのであって,どのような手段でワックスの被覆量を33%とするかは,実施例1の実験結果を左右するものではないことは明らかであるから,…ワックスの残存率が33%となるようにしたローソクの点火時間が3.0秒であるという実施例1の実験結果をもとに,当該ローソクの燃焼芯が露出している場合については,点火時間が短くなることはあっても,点火時間が3.0秒よりも長くならないということも,当業者であれば当然に理解することといえる。』
⑦平成22年(行ケ)第10019号「モールドモータ」事件
⇒作用効果との関係で影響がないことを重視した。⇒抽象化表現OK
(判旨抜粋)『明細書…の本件発明の作用・効果等の記載に照らすならば,①本件発明を特徴づけている技術的構成は,特許請求の範囲の記載中の「…」までの部分にあるのではなく,むしろ,これに続いて記載されている「…」との部分にあると解されるところ,本件特許明細書の「内周側が連結された歯部」との構成は,前段部分に記載されていること,②そして,「歯部」は,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」のみに限定された範囲のものであったとしても,「内周側が絶縁性樹脂を介さないで連結された歯部」を含む範囲のものであったとしても,本件発明の上記作用効果,すなわち,歯部間におけるコイルのスペースファクタを高くし,コイルの冷却を良好にすることにより,モータ特性を向上させ,モータの全長を短くするとの作用効果との関係においては,何らかの影響を及ぼすものとはいえない…。』
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1 取消事由1(新規事項の追加に関する判断の誤り)について
(1) 本件補正の内容
・・・
(2) 本件当初明細書の記載
・・・
(3) 本件当初明細書等に記載された技術的事項
ア 本件で主に問題とされているのは実施例2であるが,その検討の前提として,本件当初発明の意義及び実施例2の変更元である実施例1についてまず検討する。
本件当初発明は,特に出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所定の位置に達した際に,出力部材の動作に連動させてシリンダ本体内のエア通路の連通状態を開閉弁機構により切換え,エア圧の変化を介して前記出力部材の位置を検知可能にした流体圧シリンダ及びクランプ装置に関するものであり(段落【0001】),流体圧シリンダの小型化,出力部材の位置検出の信頼性や耐久性の向上等を目的とするものである(段落【0011】,【0021】ないし【0023】)。
実施例1は,第1エア通路21のエア圧を介して,出力部材4が上昇限界位置にあることを検出する為の第1開閉弁機構30,第2エア通路22のエア圧を介して,出力部材4が下降限界位置にあることを検出する為の第2開閉弁機構50を備えるクランプ装置1である(段落【0036】)。
第1開閉弁機構30は,油圧導入室33が,油圧導入路34を介して,クランプ油室14に接続され,クランプ油室14に油圧が供給されると,油圧導入路34から油圧導入室33に油圧が導入され,その油圧が弁体本体38を進出方向へ付勢し,閉弁状態から開弁状態となる。逆に,クランプ装置1がアンクランプ状態になったとき,油圧導入室33の油圧がドレン圧になり,ピストンロッド部材4aの大径ロッド部4eにより弁体本体38がキャップ部材32側へ押動され開弁状態から閉弁状態に切換わる(段落【0057】ないし【0059】)。第2開閉弁機構50は,クランプ装置1がアンクランプ状態のとき,アンクランプ油室15の油圧が,油圧導入孔(路)54から油圧導入室53へ導入され,油圧導入室53の油圧により弁体51が上方へ付勢されて上方へ移動して開弁状態となる。逆に,アンクランプ油室15の油圧をドレン圧に切換え,ピストンロッド部材4aが下降限界位置まで下降すると,弁体本体58がピストン部4pにより下方へ押動され,開弁状態から閉弁状態に切換わる(段落【0069】,【0070】)。また,本件当初明細書には,実施例1の効果として,エア通路のエア圧を介して,クランプ状態になったこと,又は,出力部材の所定の位置を確実に検知できること(段落【0070】,【0073】),第1,第2開閉弁機構をクランプ本体内に組み込むことができるため,油圧シリンダ1を小型化することができること(段落【0071】),第1,第2開閉弁機構では,クランプ油室内(第2開閉弁機構においてはアンクランプ油室内)の油圧を油圧導入室に導入し,その油圧を弁体に作用させて,弁体を出力部材側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐久性の面で有利であること(段落【0072】)が記載されている。
イ(ア) 次に,本件当初明細書には,実施例2として,実施例1の第2開閉弁機構50を部分的に変更し,弁体本体58Aの下端部分に形成した凹穴58dと油圧導入室53に圧縮コイルスプリング53aを装着することで,弁体本体58Aが,油圧導入室53の油圧によって上方へ付勢されると共に,圧縮コイルスプリング53aによって上方へ付勢されるようにした第2開閉弁機構50Aが開示されている(段落【0074】,【図11】,【図12】)。ここで,圧縮コイルスプリング53aは「クランプ状態からアンクランプ状態へ切換える際に,アンクランプ油室15に充填される油圧の圧力が立ち上がるまでの過渡時における,弁体51の作動確実性を高める」(段落【0075】)ものとされているから,実施例2において,弁体本体58Aを上方へ付勢する力は,主としてアンクランプ油室15から油圧導入路54を通じて油圧導入室53に導入される油圧によるものであって,圧縮コイルスプリング53aは,油圧による付勢力が立ち上がるまでの間,補助的に用いられるものと認められる。
(イ) 発明の効果との関係で,第2開閉弁機構50Aは,「実施例1の油圧シリンダと同様の効果を得られる」(段落【0075】)ものであるとされている。ここで,実施例1の油圧シリンダの効果の1つとして,アンクランプ油室内の油圧を油圧導入室に導入し,その油圧を弁体に作用させて,弁体を出力部材側へ突出状態に保持できるため,信頼性と耐久性の面で有利であることが記載されていることは,前記アのとおりである。よって,実施例2における油圧導入室53と油圧導入路54は,信頼性と耐久性の面で有利という発明の効果を奏するための必須の構成といえる。
ま た,油圧シリンダの小型化という効果について,段落【0071】には油圧を用いることとの関係は明記されていないものの,段落【0021】に,「シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁機構を設け,この開閉弁機構は,弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備え,弁体をクランプ本体に形成した装着孔に組み込むことで,開閉弁機構をシリンダ本体内に組み込むことができるため,流体圧シリンダを小型化することができる」と記載されていることからすれば,実施例2において油圧導入室53と油圧導入路54とを備えることが,油圧シリンダの小型化に関係していると考えるのが自然である。原告は,段落【0021】の記載は,本件当初発明1に規定された「開閉弁機構」の構成を列挙したものにすぎないと主張するが,現に記載がある以上,それを無視することはできない。
このように,実施例2において,油圧導入室53と油圧導入路54は,発明の効果と結びつけられた構成といえる。
ウ 実施例3は,実施例1の第2開閉弁機構50を部分的に変更し,環状部材57を省略した第2開閉弁機構50Bとするものである(段落【0076】)。
実施例4は,実施例3の第2開閉弁機構50Bを部分的に変更し,キャップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52cを設けた第2開閉弁機構50Cとするものである(段落【0080】,【0081】)。
実施例5は,開閉弁機構を,弁体31D,51を可動弁体なしで弁体本体38,58のみで構成するとともに,出力部材の位置と開閉弁機構の開閉状態との関係を実施例1の場合と逆にした第1開閉弁機構30D,第2開閉弁機構50Dとするものである(段落【0084】,【0085】,【0089】,【0090】,【0092】)。
実施例6ないし8は,開閉弁機構については,実施例1または5と同様の構造である(段落【0096】,【0106】,【0112】,【0113】)。
このように,実施例3ないし8は,いずれも開閉弁機構については,実施例1と同様に,流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることのみによって,弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成である。また,実施例3ないし8は,いずれも実施例1と同様の効果が得られるとされている(段落【0079】,【0083】,【0093】,【0100】,【0111】,【0118】)
エ 段落【0119】及び【0122】には,前記実施例を部分的に変更する例として,「本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の開閉弁機構を採用することができる。」とされているが,変更の具体的な内容は記載されていない。
オ 本件当初発明7は,「前記開閉弁機構は,前記弁体を前記出力部材側に弾性付勢する弾性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。」というものである。
本件当初発明7は,本件当初発明1を引用するところ,本件当初発明1は,「前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え」るものであるから,本件当初発明7も,流体圧導入室と流体圧導入路を備えるものであることは明らかであり,段落【0029】の記載も,かかる理解と整合的である。
カ 以上のとおり,本件当初明細書等の記載のうち,実施例2の構成は,油圧導入室53と油圧導入路54を備えることによる油圧による付勢を主とし,圧縮コイルスプリング53aによる付勢を補助的に用いるものである(前記イ(ア))。かかる構成から,主である油圧による付勢に係る構成をあえてなくし,補助的なものに過ぎない圧縮コイルスプリングのみで付勢するという構成を導くことはできないというべきであり,実施例2においては,油圧導入室53と油圧導入路54が発明の効果と結びつけられて記載されていること(前記イ(イ))を考慮するとなおさらである。段落【0119】及び【0122】の記載は,具体的な変更内容を示すものではないから(前記エ),上記認定を左右しない。また,本件当初明細書のその他の実施例は,流体圧導入室及び流体圧導入路のみによって弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成である(前記ウ)。本件当初明細書等のその他の部分にも,流体圧導入室及び流体圧導入路を備えない構成についての開示はない。
そのため,開閉弁機構に流体圧導入室及び流体圧導入路を設けることなく,弾性部材のみによって弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する構成は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項とはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,段落【0122】において開閉弁機構の改変が示唆され,実施例2においては弁体を進出させる構成を改変することが示されていること,その改変後の進出機構(実施例2)において,弾性部材を用いることも明示されていること,「弾性部材単独構造」は当業者にとって周知技術ないし技術常識であることから,かかる構造を選択することは当業者にとって極めて自然であり,本件当初明細書等の記載を「弾性部材のみで弁体を進出させる」という技術常識と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が本件当初明細書等に含まれていると主張する。
しかし,段落【0122】の記載は,変更の具体的な内容を示すものでないことは前記(3)エのとおりである。また,開閉弁機構の変更は,環状部材57の省略,キャップ部材52Cの内部にカップ状のカップ部材52cを設ける,出力部材の位置と開閉弁機構の開閉状態との関係を逆にするというように,弁体を進出させる構成に係る変更に限られない(前記(3)ウ)。一方,実施例1及びそれと同様の効果を有するとされている実施例2ないし8においては,流体圧導入室(油圧導入室)と流体圧導入路(油圧導入路)は,発明の効果と結びつけて記載されているのである(前記(3)アないしウ)。そうだとすれば,段落【0122】の記載から,開閉弁機構を変更することは読み取れても,その変更の内容として,流体圧を用いない構成とすることは想定しがたい。
そのため,当業者にとって,流体圧を用いず弾性部材のみで弁体を進出させる開閉弁の構造が周知技術ないし技術常識であるとしても,段落【0122】等の記載から,本件当初明細書等に記載された発明に当該構造を結びつけ,現在ある流体圧を用いる構成をなくすことを導くことはできない。
イ 原告は,本件当初明細書等には,①「出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可能で小型化可能な流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供すること」と,②「出力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性を向上し得る流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供すること」という2つの別個独立の発明が示されており,前者の発明においては流体圧導入室及び流体圧導入路は必須の構成ではないから,「弾性部材単独構造」は,本件当初明細書の段落【0122】でいうところの「本発明の趣旨を逸脱しない範囲」のものであると主張する。
しかし,仮に,①と②が別個独立の発明であると理解できるとしても,実施例2を含む各実施例は,①及び②の両者の課題を解決する構成となっているのであり(前記(3)アないしウ),そこから②の課題解決のための構成をあえてなくすことは,本件当初明細書等の記載から導けることではない。
また仮に①の課題だけが解決できれば良いのだとしても,①の効果との関係でも開閉弁機構が,「流体圧導入室」と「流体圧導入路」とを備えることが記載されている(前記(3)イ(イ))一方で,これらを備えない構成での解決手段については何ら記載されていないから,「弾性部材単独構造」を採用することにはならない。
ウ よって,原告の主張は採用できない。
2 結論
以上のとおり,本件補正は,当業者によって本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとは認められず,この点に関する本件審決の判断に誤りはないから,取消事由1は理由がない。そして,新規事項を追加する補正をしたことは,そのこと自体が無効理由とされているから(特許法123条1項1号),本件特許は,取消事由2(サポート要件)の理由の有無に関わらず,無効とされるべきものである。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
原告(特許権者):パスカルエンジニアリング株式会社
被告(無効審判請求人):株式会社コスメック
(Keywords)特許、無効審判、補正、訂正、分割、新規事項追加、課題、主たる、従たる、不可欠、必須、削除、鶴岡、ソルダーレジスト、新たな技術的事項、導入、トレンド
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和2年3月23日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
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