平成30年(行ケ)第10036号 平成31年3月19日判決(森裁判長)
本件発明は、「インターロイキン-23(IL‐23)のアンタゴニスト」という公知の有効成分を含む医薬組成物に関する発明である。この有効成分は、引用発明と同一である。
また、特許請求の範囲には治療用途が明記されていないが、本件発明は、T細胞を処理して乾癬を治療することを目的とする発明である。この治療用途も、引用発明と同一である。
有効成分及び治療用途が引用発明と同一であっても、新規性・進歩性が認められる場合はあり、例えば、用法・容量限定・投与方法を限定した発明が挙げられる。知財高判平成26年(行ケ)第10045号「骨代謝疾患の処置のための医薬の製造のための,ゾレドロネートの使用」事件は、有効成分及び治療用途が引用発明と同一である「…患者に4mgのゾレドロン酸を15分間かけて静脈内投与することを特徴とする処置剤。」という発明について、投与方法は容易想到でなかったとして、新規性・進歩性を認めた。
もっとも、有効成分及び治療用途が引用発明と同一である場合において、新たな作用・機序を見出したことを発明特定事項とした上で、当該発明特定事項を相違点として新規性・進歩性が認められた事案は珍しい。
すなわち、効果のクレームアップは、当該効果が発明特定事項となる場合、換言すれば、クレームの構成が当該効果を奏する場合と奏しない場合を有する場合でなければ、引用発明との相違点と認定されないから[i]、効果のクレームアップにより新規性・進歩性が認められることはない。(=構成が常に奏する効果をクレームアップしても、発明特定事項とならない。)そうすると、特定の物に内在する新たな(非公知の)作用・機序を発見しただけでは、発明特定事項とはならず、これにより新規性・進歩性が認められることはない。
そうであるところ、本件発明と引用発明とは、乾癬を治療するためにT細胞を処理するという最終目的は同一であるが、その作用機序として、引用発明は「IL-12によるT細胞を処理(=Th1誘導によるT細胞刺激を阻害)する」という作用・機序を開示していたのに対し、本件発明は、「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」という新たな(非公知の)作用・機序を見出したものである。
ここで、「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」という作用・機序をそのまま記述しただけでは、「インターロイキン-23(IL‐23)のアンタゴニスト」が常に奏する効果をクレームアップしただけなので発明特定事項とならないが、本件発明は、当該作用・機序を「用途」として記述できたことで、発明特定事項と認められたものである。すなわち、乾癬を治療するためにT細胞を処理するという治療であっても、引用発明の「IL-12によるT細胞を処理(すなわちTh1誘導によるT細胞刺激を阻害)する」という場面と、本件発明の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」という場面とは、当該医薬組成物の投与対象患者を区別できる、すなわち、「本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる」ため、発明特定事項として認められたものである。
以上のとおりであるから、本判決を、新たに見出した作用・機序を特定しただけで、新規性・進歩性が認めた事例と理解することは正しくなく、当該新たに見出した作用・機序により、投与対象患者が区別でき、それにより「用途」が異なるとして「用途発明」が認められたと理解すべきである。逆に言うならば、公知物質について新たに作用・機序を見出したときは、当該作用・機序を発揮する場面を区別し、当該場面に用いられる「用途発明」と再定義することにより、発明特定事項となることで新規性が認められ、当該新たに見出した作用・機序が容易想到でないならば、進歩性も認められることとなる。その意味で、本判決は、「用途発明」及び「効果をクレームアップした発明」の両類型に跨る重要な示唆をもたらしたと評価できる。(「用途発明」及び「効果をクレームアップした発明」の重要裁判例を、以下の【関連裁判例の紹介】に幾つか示す。)
1.特許請求の範囲(【請求項1】)
「【請求項1】T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための,インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。」
2.本判決の判示(新たに見出した作用・機序を「用途」として特定したことにより、新規性・進歩性が認められた)
(判旨抜粋)
<新規性>
「本件特許発明1と甲3発明とは、(本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が『T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する』ためであると特定されているのに対し,甲3発明にはそのような特定がない点)で相違する。…甲3発明の『T細胞を処理する』とは,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激を阻害することを指すものであって,甲3には,記載も示唆もされていない『T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する』ことを指すものではない…。…
原告は,甲3X発明に係る抗体含有組成物の用途は,『T細胞の処理による乾癬治療』であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく,『T細胞の処理による乾癬治療』を実施すると,当然に,『T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生阻害』も生じるから,甲3X発明の『T細胞の処理による乾癬治療』と本件特許発明1の『T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生阻害』とは,用途として同一であり,甲3X発明と本件特許発明1との間に相違点はないなどと主張する。…次のとおり理由がない。
(ア) …本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。
(イ) 他方,…甲3には,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていないから,甲3発明が,『IL-23のアンタゴニストを含む組成物』を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものではないことは,明らかである。…
(ウ) そうすると,本件特許発明1の『T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため』という用途と,甲3発明の『T細胞を処理するため』という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このことは,本件優先日当時,IL-17の発現レベルを測定することが可能であったことによって左右されるものではない。…」
<進歩性>
「…本件優先日当時,当業者において,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることを認識していたとは認められない。そうすると、…T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められない。」
1.「用途発明」の裁判例紹介
1-1.「用途発明」~新規性・進歩性〇
(1)平成18年(行ケ)第10227号「シワ形成抑制剤」事件~用途発明の新規性を肯定した事例。⇒公知物質が発明の用途に効果有りでも、出願当時にそのことが公知でなければ、用途発明OK。Cf.H22(行ケ)10256
(判旨抜粋)
【請求項】 アスナロ又はその抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤
…被告は,引用発明の「美白化粧料組成物」を皮膚に適用すれば,「美白作用」と同時に「シワ形成抑制作用」も奏しているはずのものであり,「シワ形成抑制作用」のような作用は,視覚や触覚のような五感で容易に知得できる作用であるから,「美白化粧料組成物」を皮膚に適用・使用した場合に,その使用者が容易にその効果を実感できるものであることを理由として,本願発明につき格別新たな用途が生み出されたとすることはできないと主張する。しかし,引用発明の「美白化粧料組成物」を皮膚に適用すれば,「美白作用」と同時に「シワ形成抑制作用」を奏しているとしても,本願の出願までにその旨を記載した文献が認められないことからすると,「シワ形成抑制作用」を奏していることが知られていたと認めることはできない。…
当業者が,本願出願当時,引用発明の「美白化粧料組成物」につき,「シワ」についても効果があると認識することができたとは認められず,本願発明の「シワ形成抑制」という用途は,引用発明の「美白化粧料組成物」とは異なる新たな用途を提供したということができる。
(2)平成25年(行ケ)第10255号「芝草品質の改良方法」事件~用途発明の新規性判断。 *未知の属性であっても用途が実質的に同じと判断された「スーパーオキサイドアニオン分解剤事件」H22(行ケ)10256と異なる。
(判旨抜粋)
【請求項1】芝草の密度,均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法であって,…を含み,ただし,…を含まない,方法
…本願発明は「芝草の密度,均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法」であるから,「芝草の密度,均一性及び緑度を改良するための」は,本願発明の用途を限定するための発明特定事項と解すべきであって,銅フタロシアニンを含む組成物の有効量を芝生に施用するという手段が同一であっても,この用途が,銅フタロシアニンの未知の属性を見出し,新たな用途を提供したといえるものであれば,本願発明が新規性を有するものと解される。…
刊1発明は,銅フタロシアニンを着色剤として用いて芝草を緑色にするという内容にとどまるものであって,刊行物1には,芝草に対して生理的に働きかけて,品質を良くするという意味での成長調整剤(成長調節剤)としての本願発明の用途を示唆する記載は一切ない。加えて,着色剤と成長調整剤とでは,生じる現象及び機序が全く異なるものであって,…①植物成長調整剤は「農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤,発芽抑制剤その他の薬剤」(農薬取締法1条の2第1項)に該当する「農薬」であるのに対して,着色剤はこれに該当しないこと…,②文献上も両者は異なるものとして分類されていること…,③商品としても,両者は区別されて販売されていること…,④成長調整剤は芝草の生育期に使用されるのに対して,着色剤は芝休眠時に使用されるなど使用時期も異なること…などからすると,本願発明における芝草の「密度」,「均一性」及び「緑度」の内容は必ずしも一義的に明らかではないものの,本願発明は,刊1発明と同一であるということはできない…。
(3)平成27年(行ケ)第10129号「パーティクル濃度測定装置」事件~用途発明の新規性判断~物の発明において、使用態様が発明特定事項として認められ、引用例と相違すると判断された。
(判旨抜粋)
【請求項1】…仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部…を有する…パーティクル濃度測定装置
…引用発明の枠体の開口部42の開口面を通過する気流の方向は,あらかじめ特定されないのに対し,本願補正発明の開口内部を通過する気体の流れの方向は,開口面に直交する方向に限定されている。したがって,引用発明の「枠体」は,本願補正発明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」には相当しない。…
被告は,引用発明を,開口部42の開口面に直交して気体が流れるようにしても使用できることは,当業者にとって明らかであると主張する。…引用発明においては,当然ながら,開口部42の開口面に直交した方向にも気体は流れ得る。しかしながら,それは,引用発明の浮遊パーティクル検出装置を用いた結果により判明するにすぎず,あらかじめ判明していることではない。パーティクルの飛来方向を検知できるとする引用発明を,あらかじめ気流の流れる方向,すなわち,パーティクルの飛来方向が判明している場合に使用しても,当該発明が目的とする効果は生じ得ないから,当業者は,あらかじめ気流の方向が判明している場合には,引用発明の浮遊パーティクル検出装置を用いないと認められる。
(4)平成27年(行ケ)第10051号「構造物の目地の構造」事件~用途発明の新規性判断、引用発明が当該用途を奏するという開示なし。
(判旨抜粋)
【請求項1】…略V字形の防草傾斜面…とで構成される構造物の目地…
…本件訂正発明1の「略V字形の防草傾斜面」とは,「略V字形」の連接傾斜面を構成する「下向き傾斜面」を利用して,植物の屈地性及び屈光性の特性を阻害することにより雑草の成長を阻止する「防草機能」を有する「傾斜面」を意味する…。
甲1の図3におけるコンクリートブロックの左側面の切り欠き棚の上面(棚面)が,植物の屈地性及び屈光性の特性を阻害することにより雑草の成長を阻止する「防草機能」を有することが開示されているとまで認めることはできない。
(5)平成26年(行ケ)第10045号「骨代謝疾患の処置のための医薬の製造のための,ゾレドロネートの使用」事件~数値限定という構成自体の容易想到性を否定した。(顕著な効果を判断せず)⇒差し戻し後、優先権主張不適法の拒絶理由が通知され、取り下げられた。
(判旨抜粋)
【請求項1】 …患者に4mgのゾレドロン酸を15分間かけて静脈内投与することを特徴とする処置剤。
ゾレドレン酸は、パミドロン酸よりも100ないし850倍も活性が高いビスホスホネートであって,インカドロン酸及びアレンドロン酸よりもさらに骨吸収抑制作用が高く少量投与で足りることも考慮すれば,患者の利便性や負担軽減の観点からも,引用例1及び2において安全性が確認されたゾレドロン酸4mgの5分間投与という投与時間を,更に延長する動機付けがあると認めることは困難である。
1-2.「用途発明」~新規性・進歩性✕
(1)平成22年(行ケ)第10256号「スーパーオキサイドアニオン分解剤」事件~「用途発明」の新規性進歩性判断の基準=「用途」の発見等が、技術思想の創作として高度か否か。Cf.H18(行ケ)10227~未知の属性であって、用途が実質的に異なると判断された「芝草品質の改良方法事件」H25(行ケ)10255と異なる。
(判旨抜粋)
(構成要件D)…スーパーオキサイドアニオン分解剤
物に関する「方法の発明」の実施は,当該方法の使用にのみ限られるのに対して,「物の発明」の実施は,その物の生産,使用,譲渡等,輸出若しくは輸入,譲渡の申出行為に及ぶ点において,広範かつ強力といえる点で相違する。このような点にかんがみるならば,物の性質の発見,実証,機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて,「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては,個々の発明ごとに,発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容,意義及び有用性,発明として保護した場合の第三者に与える影響,公益との調和等を個々的具体的に検討して,物に係る方法(用途)の発見等が,技術思想の創作として高度のものと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠となる。…
本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は,甲1において記載,開示されていた,白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく,新規な方法(用途)とはいえない…,せいぜい,白金微粉末に備わった上記の性質を,構成Dとして付加したにすぎないといえる。…構成Dは,白金微粉末の使用方法として,従来技術において行われていた方法(用途)とは相違する新規の高度な創作的な方法(用途)の提示とはいえない。
被告は,本件発明は,白金微粉末における,新たに発見した属性に基づいて,同微粉末を「剤」として用いるものである以上,新規性を有すると主張する。しかし,確かに,一般論としては,既知の物質であったとしても,その属性を発見し,新たな方法(用途)を示すことにより物の発明が成立する余地がある点は否定されないが,本件においては,新規の方法(用途)として主張する技術構成は,従来技術と同一又は重複する方法(用途)にすぎないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。本願審査の段階において,還元水としての用途については,削除されたものと認められるが,そのような限定が付加されたとしても,従来技術を含む以上,本件特許発明の新規性が肯定されるものとはいえない。
(2)平成29年(行ケ)第10165号、第10192号<高部>「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」事件~医薬の投与方法は発明特定事項であることを前提に、本件では容易想到と判断された。H29(行ケ)10106<高部>も同様に参考になる。
(判旨抜粋)
【請求項1】(i)抗ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し,8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより,HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器…
…当業者が…引用発明2-1に係る4/2/1投与計画による本件抗体の投与を,本件発明6に係る8/6/3投与計画による本件抗体の投与とすることを,容易に想到することができたか否かについて検討する。…
当業者は,本件優先日当時,乳がんの治療薬を含む一般的な医薬品において,投与量を多くすれば,投与間隔を長くできる可能性があり,医薬品の開発の際には,投与量と投与間隔を調整して,効能と副作用を観察すること,抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることは,患者にとって通院の負担や投薬時の苦痛が減ることになり,費用効率,利便性の観点から望ましいということを技術常識として有していたものである。…
…引用例2には,本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与量で投与できることは,示唆されているといえる。また,引用例2には,本件抗体の臨床試験において,本件抗体の毎週の投与と化学療法剤の3週間ごとの投与を組み合わせるという治療方法が記載されている。さらに,引用例2には,本件抗体の薬物動態として,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されている。そうすると,上記のとおりの技術常識を有する当業者は,…本件抗体の投与量と投与間隔を,その効能と副作用を観察しながら調整しつつ,本件抗体の投与期間について,費用効率,利便性の観点から,併用される化学療法剤の投与期間に併せて3週間とすることや,本件抗体の投与量について,8mg/kg程度までの範囲内で適宜増大させることは容易に試みるというべきである。
2.「効果をクレームアップした発明」の裁判例紹介
2-1.「効果をクレームアップした発明」~新規性・進歩性〇
(1)平成14年(行ケ)第342号「防汚塗料組成物」事件~引用例が本願発明の上位概念であり、選択発明の余地があった。以下の各判決も同じ。
(判旨抜粋)
【請求項1】…亜酸化銅と化1:【化1】(省略)(式中,nは1又は2である。)で表される2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩を有効成分として含有することを特徴とするゲル化せず長期保存が可能な防汚塗料組成物。
(「亜酸化銅」と「【化1】…で表される2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩」の上位概念に属する「ピリジンチオールオキシドの金属塩」を組み合わせることが示唆された防泥塗料が開示された引例に基づいて新規性なしとした特許取消決定を、「ゲル化せず長期保存が可能」というクレーム文言は構成要件であるから、選択発明の有無を判断すべきとして取り消した。)
(2)平成17年(行ケ)第10860号「無鉛はんだ合金」事件~Niを添加する課題が引用例と異なるとして「異質な効果」あり。 Cf.東京地裁H18(ワ)6162、Cf.H20(行ケ)10484
(判旨抜粋)
【請求項1】…Cu0.3 ~ 0.7 重量%,Ni0.04 ~ 0.1重量%,残部Snからなる,金属間化合物の発生を抑制し,流動性が向上したことを特徴とする無鉛はんだ合金
甲1 明細書には,Sn-Ni-Cu の3 元素からなるPb フリーはんだが記載されており,Cu0.5 ~ 0.7%,Ni0.04~ 0.1%,残部Sn の範囲で,その組成が本件発明1と重複する。しかし,…本件発明1 の解決課題は,「はんだ付け作業中にCu 濃度が上昇した場合に,Sn とCu の不溶解性の金属間化合物が形成され,はんだ浴中に析出したり,ざらざらした泥状となってはんだ浴底に溜まったりして,はんだの流動性を阻害すること」であって,本件発明1 は,その解決課題をNi を添加することによって解決したものであり,そのような意味で,本件発明1 は「金属間化合物の発生を抑制し,流動性が向上した」ものである。
これに対し,…甲1 明細書発明においてNi を0.01重量%以上添加するのは,耐電極喰われ性を向上させるためであって,それ以外にNi を添加する理由は甲1 明細書には記載されておらず,甲1 明細書発明は,本件発明1 にいう「金属間化合物の発生を抑制し,流動性が向上した」ものではない。
したがって,この点において,本件発明1は甲1明細書発明と同一であるということができないから,本件発明1は甲1明細書発明と,「金属間化合物の発生を抑制し,流動性が向上した」点において同一でないとする審決の判断に誤りはない。
(3)平成24年(行ケ)第10335号「斑点防止方法」事件~発明の課題を具体的に捉えて、引用発明とは課題が異なるとして、動機付けを否定した。
※本件発明は、課題をクレームアップしている。
(判旨抜粋)
【請求項1】 …紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する方法において,…を特徴とする斑点防止方法
甲2,3(周知例1,2)によれば,①填料としての炭酸カルシウム及び/又は古紙由来の炭酸カルシウムが存在する製紙工程は周知のものと認められ,また,②炭酸カルシウムが存在する製紙工程では,微生物が繁殖しやすいこと,③微生物の繁殖により,微生物を主体とし填料等を含むスライムデポジットが生成され,紙に斑点が発生する等の問題を生じること,④このような問題を防止するために,製紙工程水にスライムコントロール剤を添加し,微生物の繁殖を抑制し又は殺菌することは,いずれも周知の事項と認められる。
しかし,上記の斑点は,微生物を主体とするスライムデポジットによるものであり,ニンヒドリン反応では陽性を示すもの(…)と考えられる。また,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点が,従来のスライムコントロール剤では,その濃度を高くしたとしても十分に防止できず,上記反応物によれば防止できるものであることも考慮すれば,上記の斑点は,填料を含むものではあるものの,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点とは異なるものと認めるのが相当である。周知例1,2にも,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,微量スライムが炭酸カルシウムを凝集させることにより,紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生すること,また,製紙工程水に上記反応物を添加することにより,このような斑点を防止できることについては記載も示唆もない。周知例1,2も,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止することを動機づけるものではない。
(4)平成24年(行ケ)第10373号「半導体装置」事件~効果が「特許請求の範囲の構成を採用することにより必然的に生じるものとまではいえない」場合は、顕著な効果が否定されることからも(H19(行ケ)10109)、効果をクレームアップする意義がある。
(判旨抜粋)
【請求項1】…前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制することを特徴とする半導体装置。
原出願日当時,当業者において,半導体キャリア用フィルムにおいて,端子間の絶縁抵抗を維持するため,マイグレーションの発生を抑制する必要があると考えられていたこと,マイグレーションの発生を抑制するため,吸湿防止のための樹脂コーティングを行ったり,水に難溶な不動態皮膜を形成したり,半導体キャリア用フィルムを高温高湿下におかないようにしたりする方法が採られていたことは認められる。
しかし,原出願日当時,本件発明1のように,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を調整することにより,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率を向上させ,また,バリア層の表面電位を標準電位に近くすることによって,マイグレーションの発生を抑制することについて記載した刊行物,又はこれを示唆した刊行物は存在しない。そうすると,甲2文献に接した当業者は,原出願日当時の技術水準に基づき,引用発明において本件発明1に係る構成を採用することにより,バリア層の溶出によるマイグレーションの発生を抑制する効果を奏することは,予測し得なかったというべきである。
(5)平成25年(行ケ)第10324号「誘導体磁気及びこれを用いた誘導体共振器」事件~引用例が無効審判請求人の主張どおりであったとしても、1GHzでの誘電特性(Q値)が40000以上というクレームアップされた効果が相違点であるとした。
*同日のH26(ネ)10018と結論が逆であった。
(判旨抜粋)
【請求項1】…1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを特徴とする誘電体磁器
…仮に,甲4報告書の結果から甲1発明の試料No.35の結晶構造の確認ができたとして,甲1公報には,斜方晶型固溶体相である均一なマトリックス相と,0.07体積%のβ-Al2O3構造の第二相を有し,Q値が39000である試料No.35の誘電体磁器が開示されていると認定できると仮定すると,本件発明1とは,Q値が40000以上であるか否かの点でのみ相違することになる。念のため,この場合について検討するに,甲1公報には,…高Q値の誘電体磁器組成物を提供することを目的とすることが記載されているところ,前記認定のとおり,甲11文献によれば,β-Al2O3はQ値を低下させるものであることが知られていたから,このようなβ-Al2O3を含む上記結晶構造を有する試料No.35の誘電体磁器において,Q値を向上させるには,β-Al2O3を含まない結晶構造とすることが,当業者にとって自然な選択といえる。しかしながら,このようにβ-Al2O3を含まない結晶構造とすれば,本件発明1における結晶構造に関する構成を充たさないものとなる。また,甲4報告書の結果から,甲1公報の試料No.35の誘電体磁器が,β-Al2O3を含む上記結晶構造を有するものであることが判明したとしても,上記結晶構造を有することの技術的意義は不明であるから,Q値を向上させるにあたり,Q値を低下させるβ-Al2O3をあえて少量だけ存在させる理由も見当たらない。
また,誘電体磁器の製造方法や製造条件を調整することにより,Q値を向上し得ることが考えられるものの,上記結晶構造を有する試料No.35の誘電体磁器において,どのように調整すればQ値を向上し得るかは不明であり,さらに,そのような調整により誘電体磁器の結晶構造も変化し,本件発明1における結晶構造に関する構成を満たさないものとなってしまう場合もあると考えられる。そうすると,本件発明1は,上記結晶構造を有し,Q値が39000である試料No.35の誘電体磁器に基づいて,容易に想到することができたものとは言い難い。
(6)平成25年(行ケ)第10209号「血管内膜の肥厚抑制剤」事件~血管内膜の肥厚抑制剤というクレームでない。⇒人体に摂取する意味で用途発明であるが、技術的範囲は医薬品に限られないか?
(判旨抜粋)
【請求項1】…Ile Pro Pro 及び/又は Val Pro Pro を有効成分として含有し,血管内皮機能改善及び血管内膜の肥厚抑制の少なくとも一方の作用を有する剤
本願優先日当時においては,ACE阻害剤が血管内皮の収縮・拡張機能改善作用,血管内膜の肥厚抑制作用を示した実例はあるものの,ACE阻害剤であれば原則として上記作用のうち少なくともいずれか一方を有するとまではいえず,個々のACE阻害剤が実際にこれらの作用を有するか否かは,各別の実験によって確認しなければ分からないというのが,当業者の一般的な認識であったものと認められる。
(7)平成27年(行ケ)第10097号<大鷹>「発光装置」事件~クレームアップされた効果が構成であるとした上で、同構成が容易想到でないとした。
(判旨抜粋)
【請求項1】…青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は,内部量子効率が80%以上であ…る発光装置。
不純物の除去等の製造条件の最適化等により,蛍光体の内部量子効率を高めることについても,自ずと限界があることは自明であり,出発点となる内部量子効率の数値が低ければ,上記の最適化等により内部量子効率を80%以上とすることは困難であり,内部量子効率を80%以上とすることができるかどうかは,出発点となる内部量子効率の数値にも大きく依存するものと考えられる。…当業者は,甲3発明において,Sr2Si4AlON7:Eu2+蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で,さらに,青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とする構成(相違点5に係る本件訂正発明の構成)を容易に想到することができたものと認めることはできない。…
一般論として,本件出願の優先日前において,青色発光素子が放つ光励起下における「ニトリドシリケート系の窒化物蛍光体」(α-サイアロン蛍光体を含む。)の内部量子効率が80%以上のものを製造できる可能性を技術常識に基づいて想定できたとしても,甲3に接した当業者が,甲3の記載事項を出発点として,甲3発明において,Sr2Si4AlON7:Eu2+蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で,さらに,青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とする構成に容易に想到することができたかどうかは別問題であ(る)…。
(8)平成28年(行ケ)第10107号<森>「乳癌再発の予防用ワクチン」事件~「ワクチン」であること(作用効果のクレームアップ)が発明特定事項であり、相違点とされた。
(判旨抜粋)
【請求項1】…配列番号3のアミノ酸配列を有する…ワクチン組成物。
…本願優先日当時,あるペプチドにより多数のペプチド特異的CTLが誘導されたとしても,当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果があるとはいえない,という技術常識に鑑みると,ペプチド特異的CTLを誘導したことを示したにとどまる引用発明は,本願発明と同一であるとはいえない。…
被告は,CTLが誘導されれば癌に効くという技術的事項は,本願優先日前から周知であるから,引用発明の組成物は本願発明の「ワクチン」と同一である,と主張する。しかし,…本願優先日当時の技術常識を踏まえると,CTLが誘導されることは,癌ワクチンとして有効であるための前提条件であるものの,さらにCTLが癌細胞へ誘導され,癌細胞を破壊することが必要であり,そのような誘導や破壊ができない場合があるから,CTLが誘導されることと,癌ワクチンとして有効であることが技術的に同一であるとはいえない。…引用文献には「ワクチン」と表記されている箇所があるものの、「ワクチン」としての使用の可能性があることから、そのように述べたものと解されるから、引用発明が本願発明と同一であるということはできない。
(9)平成29年(行ケ)第10041号<高部>「熱間プレス部材」事件~クレームアップされた効果が構成であるとした上で、同構成が容易想到でないとした。
*認識必要説⇒優先日後の実験✕。
(判旨抜粋)
【請求項1】…腐食に伴う鋼中への水素侵入が抑制されることを特徴とする熱間プレス部材。
引用例1には,引用発明が耐水素侵入性を有していることを示す記載はなく,このことを示唆する記載もない。また,本件特許の優先日当時において,引用発明が耐水素侵入性を有していることが技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。本件特許の優先日時点の当業者において,技術常識に基づき,引用発明が耐水素侵入性を有していることを認識することができたものとも認められない。よって,相違点⑶は実質的な相違点ではないとはいえないし,相違点⑶につき,引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到できたものということもできない。
…甲2の記載は,あくまで原告が本件特許の優先日後に行った実験の結果を示すものであり,本件特許の優先日時点において,当業者が,引用発明の鋼板表面にNi拡散領域が生成することや,引用発明が耐水素侵入性を有することを認識できたことを裏付けるものとはいえない。
2-2.「効果をクレームアップした発明」~新規性・進歩性✕
(1)東京地裁平成16年(ワ)第15892号「樹脂」事件~引用例が本願発明と同一であり、選択発明の余地がなかった。
(判旨抜粋)
【請求項1】遠赤外線放射機能を有する黒鉛珪石を配合したことを特徴とする樹脂。
本件発明は,天然の黒鉛珪石が常温で遠赤外線を放射するという機能を有することを利用したものであり,本件明細書には,他に黒鉛珪石に何らかの処理,加工等を施して遠赤外線放射機能を有するようにしたとの記載もない。したがって,本件発明における「遠赤外線放射機能」とは,単に天然の黒鉛珪石が有する属性であると解され,結果として「遠赤外線放射機能を有する黒鉛珪石」とは,単なる「黒鉛珪石」を意味することになる。そうすると,本件発明の「遠赤外線放射機能を有する黒鉛珪石を配合したことを特徴とする樹脂」とは,種々の用途に用いられる樹脂一般に対して,黒鉛珪石を配合したものを意味する…。
引用例1には,遠赤外線放射機能を有するかどうかについては記載がない。しかし,…遠赤外線放射機能は,単に天然黒鉛珪石が有する属性であるから,本件発明の構成とはいえない。また,…天然の黒鉛珪石は,それ自体遠赤外線機能を有するものであることが認められ,引用例1に記載された黒鉛硅石も,遠赤外線放射機能を有するものであることは明らかである。したがって,引用例1にこの点の記載がなくても,本件発明は,引用例1に記載された発明であるということができる。
(2)平成22年(行ケ)第10055号「血管老化抑制剤および老化防止抑制製剤」事件~物のクレーム中の作用効果の記載は、特定事項でないから相違点でない~引用例が本願発明と同一であり、選択発明の余地がなかった。
(判旨抜粋)
【請求項】タラ目又はカレイ目の皮を原料とし,分解酵素としてペプシンを用い,pH1.5に調整した後,温度40℃で20分間酵素分解を行い得られた重量平均分子量が3,000の魚皮由来低分子コラーゲンを必須成分とする,血管内膜厚を減少させることを特徴とする血管老化抑制剤
引用発明及び本件補正発明は,いずれも物の発明であるところ,相違点3に係る本件補正発明の構成である「血管内膜を減少させる」ことは,発明の作用効果に関する事項であって,本件補正発明を物の観点から特定するものではない。したがって,「血管内膜を減少させる」との記載の有無は,物の発明である引用発明と本件補正発明との実質的な相違点とはいえない。
以上に対して,原告は,本件補正発明が「血管内膜を減少させる」こと,すなわち粥状動脈硬化症に対する予防及び治療という,引用発明が提供していない医薬用途を提供するものである旨を主張する。しかしながら,引用例が粥状動脈硬化症をも対象としていることは前記のとおりであるから,原告の上記主張は,「血管内膜を減少させる」ことが引用発明と本件補正発明との相違点たり得ないことを離れてみても,主張自体失当といわなければならない。
(3)平成23年(行ケ)第10050号「抗骨粗鬆活性を有する組成物」事件~物のクレーム中の作用効果の記載は、特定事項でないから相違点でない~引用例が本願発明と同一であり、選択発明の余地がなかった。
<顕著な作用効果を認めた裁判例>Cf.H21(行ケ)10238、Cf.H23(行ケ)10018
(判旨抜粋)
【請求項1】「カルシウム,キトサン,プロポリスを配合したことを特徴とする抗骨粗鬆活性を有する組成物。」
原告は,審決が,相違点1についての検討に当たり,「本願発明における「抗骨粗鬆症活性を有する」なる記載は,組成物の有する活性を単に記載したものであり,「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するものとは認められないため,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」,「引用発明は,腸管内でのカルシウムの吸収率を増加させる作用を有し,骨粗鬆症を予防,治療するための組成物に他ならないものであるから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」と判断したのは誤りであると主張し,その理由として,本願発明が,骨粗鬆症の治療に対しカルシウムを骨へ直接取り込むことを主眼とする上記引用発明とは異なる技術思想に基づくものであること,本願発明が,カルシウムを補給する前に骨の劣化を抑えることが重要であるとの観点から,カルシウム,キトサン,プロポリスの3種混合物としたことを技術的特徴とするもので,その配合成分のうちキトサンは,骨吸収を抑制する役割を担っているのに対し,引用発明のキトサンの役割は腸管内でのカルシウム吸収を促進するためのものであり,両者の役割が本質的に異なることなどを述べる。
しかし,原告が本願発明の技術的特徴として主張する,骨粗鬆症に対する治療手法としての機序や,キトサンが骨吸収を抑制するという役割などは,本願発明を特定する特許請求の範囲において記載されておらず,「物」の発明としての本願発明を特定するものではないから,そのことを理由に引用発明との相違点の判断を否定する原告の主張は,失当といわなければならない。
なお、本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」との記載は,「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,また,引用例Aの「カルシウム吸収促進性」の記載も,引用発明の組成物が有する性質を記載しているにすぎず,いずれも「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから,これらの記載の相違は実質的な相違点とは認められず,この点に関する審決の判断に誤りはない。
(4)平成24年(行ケ)第10398号「制震架構」事件~目的がクレームアップされていない以上、構成が同じであれば実質的な相違点でない。⇒クレームアップされていれば実質的な相違点であったことを示唆している。
(判旨抜粋)
…甲1発明のように,意匠その他の平面計画の都合で剛心と重心の偏心が生じる場合の架構も,剛心と重心が偏心するように設計されているものであることに変わりはなく,また,このような設計によっても,水平方向の加振に対し,ねじれ振動が発生するのであること,及び,本件発明1の特許請求の範囲には,「剛心と重心が偏心するように設計されており」について「制震目的で設計されており」との記載はないことからすれば,このような剛心と重心が偏心するような架構設計の理由が,専ら意匠その他の平面計画の都合によるものか,専ら制震のためであるか,あるいはその両方の目的であるかは,設計者の意図ないし動機であるにすぎず,このようにして設計された構造物が,客観的には,剛心と重心が偏心するように設計され,水平方向の加振に対しねじれ振動を発生する架構の構造物であることに変わりはない。したがって,本件発明1の構造物の架構と,甲1発明の構造物の架構は,客観的な設計構造としては実質的に同一である…。
(5)平成29年(行ケ)第10003号<高部>「…ドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」事件~クレームアップした効果を顕著な効果の問題とされた。~請求項1の判断が影響したか…。
(判旨抜粋)
…本件発明2は,本件発明1について,化合物Aがさらに「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」という発明特定事項を付加するものである。そして,「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」点は,…引用発明1及び引用発明2から容易に想到する本件発明2の構成を前提として,予測し難い顕著なものであるということはできないことから,本件審決における本件発明2の効果に係る判断にも誤りがある。
原告(無効審判請求人):サン ファーマ グローバル エフゼットイー
被告(特許権者):ジェネンテック インコーポレイテッド
(Keywords)サン ファーマ、ジェネンテック、IL‐17、用途発明、作用、機序、医薬組成物、新規性、進歩性、効果のクレームアップ、新たな作用、公知の有効成分、公知の治療用途、無効審判、森
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和元年7月16日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
本件に関するお問い合わせ先: h_takaishi@nakapat.gr.jp
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[i] 高石秀樹・別冊パテント15号「進歩性判断における『異質な効果』の意義」(日本弁理士会中央知的財研究所、2016)